今回は文字言語(読み書き)ではく、
音声言語(話す聞く)を調べてみました。
日本語以外を母国語とする人が日本語を学ぶと、ある変化が観察されることがあります。それは、話す人の人格や感情表現が穏やかになるというものです。信じがたいかもしれませんが、心理学や言語学の研究でも報告されています。
ここでは、日本語が持つ「人格を柔らかくする力」を、《音・沈黙・感謝》の3つの観点から整理してみます。
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目次
① 音の力 ― 感情を“音”で表現する
日本語の特徴の一つに、オノマトペの豊富さがあります。「ワクワク」「ドキドキ」「キラキラ」のように、感情や自然の動きを音で直接伝える表現は、約4500語も存在します。他の言語ではここまで体系的に発達していません。
英語圏ではオノマトペのことを
イデオフォン(ideophone)と呼びます。
この音象徴の体系性は、話す側の情動や心の穏やかさにも影響すると考えられています。(Mark Dingemanse, 2012; 浜野祥子, 1998)
つまり、日本語の音そのものが、心の動きを優しく表現する装置のような役割を果たしているわけです。
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② 沈黙の力 ― 言葉がなくても伝わる「間」
日本語には、言葉にせずとも相手の気持ちを察する文化があります。文脈や間で意味を汲み取る力は、言語と文化が結びついた独自の特徴です。
ポライトネス理論(Brown & Levinson, 1987)でも、沈黙は面子を保つコミュニケーション手段として位置づけられています。
ポライトネス理論
会話の裏には「相手の心を守る配慮の仕組み」が常に働いてる、っていう考え方。
曖昧表現(〜かもしれない、〜と思います)
沈黙や間で察してもらう
敬語体系で相手の立場を立てる
日本語を学ぶ多言語話者は、意識的に「言わない選択」をすることで、感情のボルテージを自然に下げる傾向があります(齊藤一弥, 2015; Pavlenko, 2025)。
沈黙や間の文化は、相手への配慮と落ち着きを育て、結果として人格や振る舞いに柔らかさをもたらすのです。
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③ 感謝の力 ― 言葉が心を育てる
日本語には「ありがとう」「ごめんね」だけでなく、日常的に感謝を表現する言葉が多く存在します。「いただきます」「ごちそうさま」「おかげさまで」などです。
研究では、「いただきます」と声に出すことで、オキシトシンの分泌が増え、幸福感が高まることが示されています(Emmons & McCullough, 2003; Lambert et al., 2010; Algoe & Way, 2014)。
こうした言語習慣が、第二言語話者に自然な「優しさ」と「穏やかさ」をもたらすと考えられます。
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まとめ ― 言葉は「頭」だけでなく「心と体」で覚えるもの
音声言語としての日本語は、単に声に出す技術ではなく、感情と結びつきリズムとして耳と体に刻まれ文化ごとの表現が染み込むことで、“生きた言葉”になる。
言語を学ぶということは、単なる暗記や知識の習得ではなく、心と体で響かせる体験でもあるのかもしれない。
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学術的視点の補足
敬語体系や間接表現など、日本語の言語構造自体が「相手を思いやる習慣」を作る(Brown & Levinson, 1987; Gumperz, 1982)。
第二言語習得研究では、多言語話者は言語ごとに異なる自己像を持ち、日本語使用時には「控えめ」「協調的」な自己が立ち上がることが確認されている(Pavlenko, 2005)。
情動のコードスイッチング実験では、第二言語での感情表現は母語よりも弱く、日本語では情動を和らげる語彙が豊富なため、自然に心が穏やかになる(Harris et al., 2006)。
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